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「魯山人」とは「愚山人」という意味である。
天才芸術家「北大路魯山人」は1883年京都上加茂神社宮司の次男・房太郎としてこの世に誕生しました。一見上加茂神社の息子と言えば恵まれた生まれと思われがちですが、父は生まれる4ヶ月前に自殺、母はと言うと長男と共に失踪してしまいました。以後親戚をたらい回しにされ6歳の時に木版師・福田武造の養子となりました。北大路魯山人の幼少期は決して彼にとって幸福な時代ではありませんでしたし、この体験が後に6度も結婚を繰り返したり、人に対して好き嫌いをはっきりさせるなど、彼の人格形成に大きな影響を及ぼします。特に威張った大人は大っ嫌いでした。その代わり子供には優しい心をもった人でもあった様です。6歳の時には自ら炊事の担当を申し出て様々な食材を使い、季節によった食材を肌で感じなら料理を作ったと伝わっており、美食家と呼ばれた魯山人の原流はこの頃から始まったと言えます。北大路魯山人の食に対する一貫した考え方の一つが料理は盛付けをする器と一体で無ければならないという点です。魯山人曰く「器は食の着物」・「贅沢な食材を使い器を考えないのは野暮と言うもんだ」。ちなみに先付け、所謂前菜という概念を日本食に初めて取り入れたのも北大路魯山人です。

北大路魯山人は食の分野のみならず、芸術やビジネスの分野でもその才能を遺憾なく発揮してくれます。書・篆刻・絵画・陶芸・漆芸・古美術品収集（大雅堂芸術店・後に美術店）・飲食店経営（美食倶楽部・星岡茶寮）・星岡窯（鎌倉市山崎）など彼の人生はまさに芸術・と食と共にあると言っても過言ではありません。魯山人は薬屋（漢方薬）での丁稚奉公を終えると２０歳で書家になる為に上京、太陽の塔で有名な岡本太郎の祖父岡本可亭に弟子入りします。その後、中国北部・朝鮮を訪れ書や篆刻を学び、一時朝鮮総督府で書記の職に就いています。京都の養父母宅に帰国後上京、京橋に「大雅堂芸術店」（後に大雅堂美術店に改名）を開店、自ら作るまかない飯が評判となり大雅堂の二階に「美食倶楽部」をオープン、1925年には赤坂に「星岡茶寮」を開き貴族院議長などの政治家や財界人のほか志賀直哉・鏑木清方などの文化人・芸術家もこぞって会員となるなど大評判の料亭を築きました。また、北大路魯山人の名声は日本だけでなく世界にも轟きます。1954年、当時日米協会の会長を務めていたロックフェラーの招待を受け渡米しています。当地での公演や自身の作品を寄贈したことを通じてアメリカ芸術にも少なからず影響を与えました。さらにヨーロッパやエジプト・インドを歴訪、ピカソやマチス・シャガールなどと交流をしています。

晩年、小山富士夫より織部焼の重要無形文化財（人間国宝）の認定通知を受けとりますが、「勲章なんていらない」と固辞したり独立独歩の人生を貫き76年の大芸術家人生を終えます。一説によると好物のタニシに当たって死んだと。美食家で好食家の魯山人の生き様を彷彿させるエピソードでもあり、魯山人らしい納得の往生の仕方ではないだろうか。